2011/07/28
JIN KURAMOTO STUDIO プロダクトデザイナー倉本仁

デザイナーズインタビュー第二弾は、現在最も活躍されている若手デザイナーの一人、倉本仁さんです。倉本さんは家電メーカーのデザイナーを経て2008年に独立。家具やプロダクトのデザインを中心に企業や地場産業のデザイン企画・総合的なアートディレクションにも携わっています。

またメーカー時代から現在まで携帯電話などを手がけていることもあり、CMFデザインには強い想いがあるそうです。
また地場産業など、優れた技術とデザインを結ぶことでビジネスの市場を広げる活動に積極的で、CMF DESIGN LINKと想いが共通している部分が沢山ありました。

 

今回は倉本さんのスタジオにお邪魔して、CMFデザインについて、またご自身のデザインに対するこだわり、今後の展望などについてもインタビューしてきました。

 

Interview

まず初めに倉本さんの仕事について教えて下さい

 

倉本さん(以下:倉)最近のプロジェクトでCMFデザインに大きく関係しているのがiidaACアダプターJUPITRISです。
スマートフォンが主流になりつつある今、充電器も持ち歩くようになっている。
しかし、充電器というのはどうしてもバックの中でぐちゃぐちゃになってしまうため、美しくスマートに持ち運べる充電器を、という
コンセプトでデザインしています。 こだわったのはやはりCMF。モバイルする携帯電話と同じような品質・感覚で5色のバリエーションを設定し、表面の処理にこだわりました。


参考HP http://iida.jp/products/accessories/ac-adapter-jupitris/

 

具体的にはどのようなところにこだわったのですか?

 

倉:まず機能的には携帯するものとして軽量化です。すっきりとした外観は非常に薄い樹脂成形材で出来ており、薄く小さく作る為に苦労しました。 また薄く小さいながらも、色や質感は塗装のような美しい艶感を実現し、出来そうで出来なかったCMFの表情になりました。
技術的にも非常に難易度が高く、なかなか機能と見た目を達成できるメーカー さんが見つからなかったのですが、唯一このメーカー
さんだけが 達成できました。ですから作り方は企業秘密なんです(笑)

 

KDDI iidaのACアダプター JUPITRIS

 

難しい事をやってもらうのは大変だと思いますが、何かコツはあるんでしょうか?

 

倉:基本的には仕上げの表情やイメージを出来るだけ具体的に伝えると言うことでしょうか。
今回この充電器では、塗装を磨き上げたような、つるっとした外観にこだわりました。実際塗装は表面が本当の意味で
平滑にはならずに、ちょっとユズ肌のようになりますよね。 でもそれも嫌だった。だから求める表面については徹底的に話しをしました。 ただ、プロダクトというのは強度の選定や、求めるスペック、様々な法規的な制限もあったりするので、デザインのイメージを実現できるCMF・メーカーさんを探すのが 大変なんです。

 

なるほど。CMFはデザインの中でも特に感覚的な部分が大きく、イメージを製造サイドに伝えるのが難しいですよね。倉本さんはどのようにデザインを進めますか?

 

倉:CMFデザインには2つの方法があると思います。一つはあるモノを選ぶ、編集やコーディネーションの方法、もう一つは過去になかった仕上げやイメージを作り上げる方法です。当然のことながら後者の方が難しい。その場合は頭の中で詳細な最終イメージができあがっている必要があります。

 

全く同感です。でも頭の中で完全にできあがっていたとしても、なかなか伝えるのが難しいですよね。

 

倉:そうですね、イメージを伝える時には指示サンプルやモックアップを使って出来る限り『コレと同じで』と明確なオーダーをします。
大体の場合でイメージと全く同じにはならず少し違うんです、ほんの少し。でもそこで妥協すると結局、既に見慣れたようなモノにしかならない。 どうやって達成するのか、造り方などは分からなくても、その少しの違いにどこまでこだわれるかで新しいCMFの魅力に繋げられるかどうかが決まると思います。 今回も正直、求める質感が出来るかどうかは分かりませんでした。でも質感については徹底的に伝えるよう努力して、それが良かったんじゃないかと思います。

 

インハウスでデザインしていたときはよく『実現性に根拠のないのを提案するな』としかりを受けたものですが、新しいCMFが世の中に対して達成できる価値を明確にイメージできたなら、それは覚悟を決めて開発すべきだと思っています。製品の差違の為だけにCMFを使う・選ぶのは本質的な価値開発ではないですからね。

 

色や素材のサンプルが並ぶ

 

次にスタイリングとCMFデザインの関係性について教えて下さい

 

倉:演奏者と楽器のような関係でしょうか。良い演奏者がいてもそれにふさわしい楽器がないといい音楽を奏でられませんよね?
例えばバイオリニストにフルートとか。 明確な表現のためには両方が補完し合う関係が必要不可欠だと思います。

 

その両者をデザインするときにはどのようなプロセスで考えますか?

 

倉:全く同時に考え始めます。例えば艶やかな光沢感のある表面仕上げとその光沢感を効果的に見せる形状は同義に近いと思います。デザインというのは様々な構成要素を多角的に見ながら進めなくてはなりませんから、形状が決まってからCMFを考えていたのでは本質的な強いイメージが表現できなくなってしまうと思います。ぼんやりした大きなイメージを全体的に少しずつクリアにしていく、という作業を大切にしています。

 

インハウス時代と独立後で変わった部分はどんなところですか?

 

倉:インハウス時代はたくさんの専門家がプロジェクトに関わっていましたから、何かとんでもないことを提案しても専門的な知識をもった誰かが代りに考えてくれたり、止めてくれたりしました。でも独立後は自分で様々な事を確認してからでないと提案出来なくなりました。誰も止めてくれませんからね(笑)かといってあまり保守的になっても新しい価値に辿りつけないし、その辺のさじ加減は難しい部分です。

 

普段の生活の中でデザインに対して感じる事はありますか??

 

倉:僕は趣味で釣りをやっているんですが、釣りの道具も最近は凄くCMFデザインが凝っているんですね。とてもカラフルだったり様々な素材を使ったり。ただそれって僕には釣り場ではなく『売り場』が見えてしまうんです。釣りをするために本当に必要なものではなく『売り場』で差別化する為とか目立つ為とか。もちろんデザイン開発って新しさや売れることも重要なのですが、それだけではないということも考えるべきだと思います。 CMFというのはただ差異を出す為のものではないし、差異だけになってしまうと逆に価値が薄れると思います。CMFに関しては古い・新しいではなく本質的な感覚にこそ正直でありたいと思っているんです。

 

more trees のモビール(製品化されたのは白木バージョン)と『color』がテーマのコンペで受賞・製品化されたカップ

 

倉本さんのデザインは色のバリエーションが多い気がするんですが

 

倉:以前はデザインのコンセプトを伝える為に、色使いなどで答えをぼかさない方が良いと思っていました。色も昔は白一本が多かったですね。何のためのデザインかどうしてこの形か?などをロジカルに表現しようと思うと色は余計な情報が入らない白、という考え方でした。たぶん昔はデザインが頭でっかちだったんですよ(笑)きちっとまじめにデザインして、最後は『いかに美しくまとめるか』を考えて艶消しの白1色などになっていたんですね。

 

それが独立してから変わったんです。ふと周りを見ると、みんな同じ感じがした。すると急に自分を退屈に感じちゃって(笑)
今は入念に作り込まれた形状が台無しになるくらいのCMFを考える方が面白いと思ったりします。今考えると、2009年のミラノサローネで<補色>というテーマのグループ展をやったのですが、その頃から色にも深く意識を働かせるようになったと思います。
その後、<color>というテーマのコンペで準グランプリを頂いたのですが、その作品を作るときも色や素材のことを考えるのが楽しかったですね。歴史から技術・ユーザーのことまで本当に色々考えました。こういったカップの色や素材にもすべて意味や歴史があるんです。風土に土着した日本古来のCMFなんてのもたくさんあって面白いですよ。

 

白中心だった頃の作品『SUPPER audio sistem』と『vibon

色を強く意識し始めた2008年の『Rock

 

最後に倉本さんの今後のデザインの展望ついて聞かせて下さい。

 

倉:うまく言えないんですが、CMFデザインを<使いこなしたい>ですね。色のこと、素材のこと、加工のこと等、知りたいことが本当に沢山あります。それらに理解を深めていくことが今後の表現の幅に繋がると思っています。またCMFデザインの世界では、どんどん新しい技術や表現が生まれているので常に門を開き、多くの情報を得ることが必要だと思っています。

 

なるほど。CMF DESIGN LINKでもデザイナーに役立つ技術情報や参考になるCMFデザインを提供出来るようにしていきます。
倉本さん、今日は本当に良いお話しありがとうございました。。

 

 

とても良い雰囲気で倉本さんのセンスが光るスタジオ

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