2014/06/05
ミラノサローネ CMF REPORT 2014

全体の流れ

 

欧州の経済状況も落ち着きを取り戻し、昨年に比べやや元気を取り戻した2014年のミラノサローネではあらたな潮流も見られていた。また日本企業や日本人デザイナーも数年前と比較すると展示が多いように思われた。

 

CMFデザインの潮流をずっと追っていると、経済や人々の気分がデザインと密接な関係にあることがわかる。好景気で経済状況が安定している場合、実はCMFデザインでは新しい潮流が生まれにくく、固定化された価値の高級素材や稀少素材を惜しげもなく奇抜なデザインに合わせたりする現象が起きる。

 

逆に不景気であると、型投資などが大きい新デザインを作る事が難しくなるために、CMFで新しいデザイン表現を行うようになる。今までに無かったような価値観をCMFデザインで表現したり、新しい表面加工を採用したりなど、CMFの活性化が起こるのだ。ここ数年のマテリアルコンシャスデザインやマテリアルラボなどは、上記のような時代背景(不景気)があると思われる。

 

このような観点で見ると今年は、 (マテリアルコンシャスデザインが多かった為)まだ完全に景気が上向いてきているようには思えなかったものの「Precious Kartell」をテーマにしたカルテルでは、ゴールドで展示会場全体をコーディネートするなど、景気復活に対し、多少ポジティブな兆しを感じられる表現になっていた。

全面まばゆいばかりのゴールドに輝くPrecious Kartell

 

 

もちろん、依然強い傾向として見られたのは、ナチュラルでクラフト感あるCMFや実験的素材開発を中心としたデザインである。また、今年はクラフト的表現にデジタルファブリケーションやテクノロジーが加わるなど、新たな進化も見られていた。

タイのセラミックメーカーCOTTOによるデザイナーとのコラボレーション企画にて、デザイナーFERRÉOL BABINによるスツール。バーチウッドにマーブルの柄を転写し、素材とパターンのギャップを出している。

 

 

フランスの自動車メーカー、プジョーは2011年6月にプジョーデザインラボを設立し、自動車以外の製品やサービスを企画、製作する事でブランド・イメージの構築とアイデンティティの強化を図っている。ミラノサローネではデジタルファブリケーションに加え、高いモデリング技術を活かした提案をしていた。

 

 

 

世界観

 

あらたな潮流 ~退廃的な世界観~

 

今年、新しく見られた世界観は行き過ぎた華美な装飾や、不気味なほどに美しく廃退的な世界。退廃的とは道徳的に堕落している事を指し、何もかも満たされ贅沢な状態になるとこのような世界観が現れやすいという。また、芸術における退廃的とは対極の二つの世界を併せ持つ表現で、ある側面から見ると薄気味悪く恐ろしいが、角度を変えてみると、その美しさは抗うことが出来ないほど魅力的に見える。

 

このような世界観は、ファッションを中心とするトレンドである「ダークファンタジー」と相関していると思われる。現実世界に非現実の存在がクロスオーバーする現象を表現するバーチャル的感覚なのかも知れないが、確かに今はこういった世界観に惹きつけられてしまう。

 

250周年を迎えたバカラの展示は幻想的で圧巻の美しさ

 

 

廃品のチェーンを使ったシャンデリアは、一見、美しく輝く繊細な金属のようであるが、近寄ると危険な印象を受ける使い込まれたチェーン。工場跡地に吊される姿は不気味にも見える。

 

 

ダークファンタジーのインテリアコーディネートはファッションブランドの「ディーゼルホーム」

 

 

 

COLOR

ウォームグレーを中心とした低彩度カラー

 

インテリアではベースカラーとアクセントカラーの関係がある。カラーデザインを構築する上でとても大切な関係だ。年によりベースカラーのトレンドに注目が集まる場合とアクセントカラーに注目が集まる場合があるが、今年は断然ベースカラーだろう。アクセントカラーの方はベースカラーとのマッチングで考えられていた。

ベースカラーは2年ほど前から主流になったグレーがウォーム系に移行し、今年は低彩度のブラウンも含まれている。それにより明るい(かなり白い)ウッド色などにも合わせやすくなった。

またダークブラウン、低彩度色やミドルトーンのアクセントカラーと合わせるとラフでニュアンスのある空間などにもマッチングがよい。

 

 

明るいウォームグレーは色ズレしやすく、ほんの少しの色差で印象を大きく変えてしまうので、管理が難しい。しかし美しくまとめる事ができると、とても洗練されたイメージになる。

 

 

高い色彩センスが必要なウォームグレーのコーディネート

 

 

アクセントカラーで多かったのはグリーン味のライムイエロー。ウォームグレーとも好相性。

 

 

また色として特筆すべきは先にも触れたゴールドで、昨年までは銅、真鍮の酸化した光沢感のない鈍い金属の表情が人気であったが、今年は磨き上げた金が加わった。

 

これらはウォーム系金属という意味では同じでも、テイストはまるで違うところが興味深い。今年の金は悪趣味なほどピカピカと輝くフィニッシュになっている。これは冒頭で紹介したKartellを始め、多くのデザインで見られた傾向である。

 

 

 

本物の金箔使いも多く見られた

 

 

こちらは2013年に発表された作品。薬品で様々な色に酸化させた銅と、表面のコーティングをせずに触った手の跡が生む鈍い金属感のコンビネーション。

 

 

 

Material

天然素材に対する加工の幅を広げる

 

 

ミラノサローネは元々家具の見本市であるために、使用される素材はウッドやメタル、ファブリックなど素材の良さを活かした使い方が多く、逆にプロダクトでは使われる素材のほとんどが樹脂で、意匠面に関しては、素材を隠すような二次加工が前提となっているなど、対局の考え方であった。

 

しかし今年はその自然素材に新しい二次加工を加えたり、今までに無い素材特性に反した使い方が多く見られた。

例えば大理石。今まで大理石は面材として使うか、表面にレリーフやテクスチャーを彫り込むなどの加工が一般的だった。しかし今年は大理石を塊から削りだし、アレッサンドロ・メンディーニのオマージュとして作られたソファや、CLIQUEという、家具と電子機器を組み合わせた新しいブランドの天然石の電子機器のように、今までの固定概念にとらわれない素材使い、または素材特性にあっていない使い方がとても新鮮だった。

 

アレッサンドロ・メンディーニのソファ

天然石であれば、このような繊細な加工は壊れやすく、また非常に重いため全く適していない。しかしそれが新鮮な印象に繋がっている。

 

 

 

石と電子機器という意外な組合わせ。形だけでなく機能も伴った製品。

 

 

 

 

ネンドのプリントチェアはウッドチェアに別のウッドのプリントを重ねて新しいウッドのテクスチャーを表現したり、安い合板に別の木目をプリントをしたりと、天然素材のユニークな加工により、フェイクではないウッドプリントを提案していた。

 

 

 

新しいデザインは新しい素材という考え方

 

また、素材がデザインの潮流であるという流れはますます強くなってきており、特に革新的なデザインを探るデザイナーにとっては、新しいデザインとは新しい素材であると言っても過言ではなくなってきている。新しい素材は探す物ではなく、自らでつく作る物だ、と言うのが欧州のデザイナーの考え方で、教育現場でも、新しいデザインの為の新しい素材クリエイションというのが盛んに行われている。デザイナー、またはデザイナーのたまごは新しい素材作製のために実験を行い、そのレシピを探っている。クラフト的だったりデジタルだったり、偶発性だったり、様々な手法を掛け合わせてオリジナルのマテリアルを作り、そのプロセスさえもデザインの一部としている。こういった動きは日本ではまだ見られず、教育現場でも、素材の事は教えられることが少ない。今後はデザインと素材の関係がより密接になることが予測されるため、日本でもCMFの重要性が一般的に認知される日が近いかも知れない。

 

欧州の多くの美術大学は、写真の様な実験室を再現したような展示を素材作製プロセスと共に紹介していた。

 

 

 

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