〜柔軟な発想力を生かしたものづくり〜 サンドブラストで磨く
CMF DESIGN LINKでは、新しいCMFデザインに不可欠な高い技術力を持つものづくり企業や職人さんを取材し、その技術やものづくりに対する想いを紹介します。第一弾は株式会社不二製作所のブラスト技術。開発部第一開発課 藤乗 茂さんにお話しを伺いました。
不二製作所は主にサンドブラスト装置の設計製作と各種研磨材の販売を行なっている会社です。
基本的には技術系の企業ですが、このブラスト技術にデザインの可能性を感じた、CMF DESIGN LINKの視点で紹介させて頂きます。
不二製作所は1950年に創業し、二つとないという意味の「不二」という名前にユニークで新しい独自の発想を続けようという想いが込められているそうです。
そんな不二製作所がブラスト技術で追求するユニークさとはどんなものなのでしょうか。
株式会社不二製作所(http://www.fujimfg.co.jp/)
究極のコントロール
不二製作所のウェブサイトでブラストについてこのように紹介しています。
「ブラストは原理的には微小な粒子を高速で衝突させるという非常に簡単な加工法ですがまだまだ未知の分野なのです。地球に巨大隕石が衝突すると、地表の温度は6000度になるといわれています。 ブラスト加工においても、衝突面を瞬間的には金属の融点まで上昇させることが可能です。 物理的な変化だけでなく化学的な変化の可能性も発生してきます。 産業界の発展に尽くせる多くの可能性を秘めた分野なのです。 ふとした現象を観察することから世界的な技術や特許に発展する可能性のある分野です。」
サンドブラストは工業製品や工芸の世界では非常に一般的で、錆取り・塗装剥がし・下地処理のほか、近年では、回線・IC・電子・電気等の部品・配線加工、また装飾、彫刻を施す為にも用いられています。
面白い用途では墓石の文字彫りや人工毛髪(質感を自然にするため)、ゴルフクラブ(ブラスト加工で飛距離が10ヤード以上向上するそうです)などです。
不二製作所ではブラスト装置の設計や研磨材の配合などを行なっているため、細かなコントロールが可能だというのが最大の特徴です。極端な話、面積当りにぶつける砂の数までコントロール可能だそうで、その表現は無限に広がります。そのため用途や要望に合わせて装置から研磨剤の配合までオリジナルの提案を行なうそうです。
中でも私たちが特に注目したいのは通常表面を傷つけるサンドブラストで、「磨き」加工が可能になったという事です。
傷を付ける技術でどうやって磨くのか?

先ほど紹介したようにサンドブラストでは圧縮した空気に様々な研磨材を混ぜて、表面に吹き付けて加工します。それにより表面が荒らされることは理解出来ますが、何故「磨き」が可能なのでしょうか?藤乗さんにお聞きしました。
「通常ブラストは素材に対して、堅い研磨材を吹き付けて表面に加工を行ないますが、磨く場合は、逆に柔らかい研磨材を使用します。そしてその中にほんの少し硬い研磨材を混ぜると表面のザラつきが消え磨かれるのです。研磨剤の種類・配合や吹きつけ方などの技術で傷→磨きへ全く逆の加工が可能になるのです。加工を行なう素材の硬度によって調整が必要で、そこは不二製作所の独自のノウハウになります。」
しかし、その他のブラスト装置や方法などは通常の加工と同じ。特に特別なことはしないのだそうです。ほんの少し視点を変えるだけで、真逆の表現が可能になったと言うことですが、そこには細かなコントロールを行なう技術がベースになっています。ブラストで磨くという発想は昔からあったのですか?という問いに対して、「とんでもない、60年の歴史があるうちでも初めてのことですよ。」と言われました。
ブラストで磨くことのメリット
では、サンドブラストによる磨き加工にはどんなメリットがあるのでしょうか?
ここからはデザイン視点で考察していきます。
ブラストでは非常に細かい場所の加工が可能です。例えば機械加工が難しい、複雑な形状や奥まった場所の加工、細いラインのような部分的な磨き加工、シボのようなテクスチャー表現。すでに製品化されたモノに対する加工、などなど様々な事が可能です。磨きが困難な形状の金型仕上げや、楽器など細かいパーツが多いモノの磨き、艶とマットを組み合わせるような複雑な意匠表現、ムラやニュアンス表現などに使用しています。
製品に対する直接加工が可能だと言うことは、金型にかかわらず、表面の意匠(テクスチャーなど)なども小ロットで変更出来ると言うことです。
この写真は金属の型をブラストで磨いたもの。エッヂのダレも無く、角まで綺麗に磨けています。

今までの時代は同じ品質の製品を「大量」に「安く」生産する事が優先されてきました。よって、デザイン的に良いと思える物でも、生産効率の悪いものは製品化を諦めざるを得ない状況でした。しかし、これからの時代は多様化したニーズや消費者の価値観の変化から、小ロット多品種生産が増え、あえて効率の悪いものづくりも見直されたりもするでしょう。
そんな時にブラストによる製品の直接加工や、磨き加工は非常に有効な加工法だと考えられます。
工業製品としても効率が良く、コストも見合う、総合的に見れば投資もさほど大きくない為、フレキシブルに対応できる手法だといえます。
ブラストの幅広い可能性
ブラスト表現は「研磨材の配合」と「吹き付け方」の組み合わせがベースとなるシンプルな加工ですが、その組み合わせ次第で無限の可能性が広がっています。具体的には 工業製品・食品パッケージ・精密機器・ジーンズのダメージ加工や浅草寺の瓦(チタン製)など幅広く活用されています。
また珍しい所では木目の強調などにも使われます。木には固い部分と柔らかい部分があるのでブラスト加工を行う事で美しい節目が強調されます。ディズニーランドのウッドなどはほとんどが不二製作所のブラスト加工によるものだそうです。
チタンの金属的な質感を素焼きのような柔らかい表情にブラストで加工

木目を強調するブラスト。砂漠に落ちていた木の木目が強く出ていたことからブラスト加工が発想されたといわれている。

デザイントレンドと加工
ブラスト加工は技術的には決して新しい訳ではありません。140年も前から行なわれている加工で、 現在は様々な用途に使われています。むしろ非常に古典的な加工法と言えるでしょう。
ですからこの記事を見たデザイナーの方々も「今更ブラスト?」と思われるかもしれません。
デザイナーは常に新しいモノを求める習性がありますから。
しかし、当たり前だと思っている事も角度を変えてみると全く新しい発見に繋がることもあります。
デザイントレンドで2年くらい前から目立つのは、「不均質」さ、です。
常に均質に管理された人工物に囲まれていた私たちは、様々な環境要因から今まで信じていたものが、いかに脆く崩れやすいものか感じ、その結果「本質的な価値」を求めるようになっている、と分析されています。その「本質的な価値」表現の一つが、何一つとして同じモノがない自然の風合いから抽出された「不均質さ」や「時間を感じる古びた」表現です。
ミラノサローネより 不均質な表現

ムラ感、表面テクスチャーのバラつき、シミや傷、そんな質感には艶消しから艶出しまで幅広く小ロット他品種生産が可能なブラスト加工が適しています。
ブラスト技術を使った不均質な質感や意匠表現には、荒く削ったり、鏡面に磨いたりする緻密な研磨加工のコントロールが必要です。不二製作所ではデザイナーの要望に応え、試作や共同開発などの相談にも乗ってくれるそうです。
藤乗さん曰く、「加工をする上で曖昧な表現ほど難しいものはないが、ブラストではそれができる」
確かに今までの工業製品に曖昧な表現はできませんでした。しかしだからこそ、その曖昧さを新たなデザイン表現に繋げることができるブラストにCMFデザインの可能性を感じるのです。